ロジクールK750

2011年、東日本大震災の直後。
被災して気分も暗く落ち込んでいた3月末のある日、ようやく営業再開した近所の家電ショップを訪れた私は、この際だから気分一新しようとちょっと高級なキーボード(ロジクールK750)を購入した。
以来このキーボードは仕事に作品作りにプライベートにと、私のデスク上で行われるありとあらゆるPC作業を担ってきた。

充電用のボタン電池を交換しながら使い続け、気が付けば早11年と10ヶ月。
(ちなみにその間、PC本体は二世代入れ替わっている。)
それが先日とうとう故障し、左下のCtrlキーが押しても戻らない状態になってしまったのである。

なんとか引っ張り上げても、またすぐに押し込まれたままになる。
左下Ctrlは、ご存じのように様々な作業のショートカットに使う要のキー。
Enter、カーソルキーの次に使用頻度の高いCtrlが駄目になってしまっては、もはや使いものにならない。

普段の私ならここでなんとか修理しようと悪戦苦闘し始めるのだが、今回に限っては割とあっさり買い換える決断を下した。
これだけ長く使ってきたのだからさすがに寿命なのだろう、と思ったのだ。
もう充分働いてくれたしそろそろ休ませてあげよう、と。

そして新しいキーボードにも、同じタイプの後継機種(K750R)を選んだ。
ソーラー充電も楽しいのだがそれよりも、下にペンタブレットを置いても変に高くならない薄さと、ストロークの浅い独特のキータッチ感が、もう二度と手放せないほどのお気に入りなのである。

 

・・・・・
ところが。
手元に届いた二代目キーボードに、使い始めてわずか一日足らずで不具合が発生した。
それもよりによって旧K750と全く同じ場所、左下のCtrlキーが壊れたのだ。
使っているうちに徐々に変にカクッと引っかかるようになり、ついには全く押しこめなくなってしまった。

さすがにこれは、初期不良としか言いようがない。
すぐさま購入したお店(今回は通販で買った)に問い合わせて、急ぎ交換してもらうことになった。

 

返品に箱が必要なので、捨てるつもりで収めてあった旧K750を取り出す。
そしてふと触ってみると、‥‥‥あれ?

なんと、左下のCtrlキーが普通に使えるではないか。

おかしい、間違いなく壊れていたはずだ。
何度も押して確かめてみたが、やはり復活している。特に何かしたわけでもないのに。
箱に出し入れしたりして動かしたからか?
それとも寒い物置にしばらく放置したから、温度の変化で?

ともあれ、全く問題なし。一体何だったのだろうか。
押し込むと元気に跳ね返ってくるキーの音。私には、「まだ働けるよ!」と必死で訴えかけてくる声のように感じられた。

 

・・・・・
巷では昨今、断捨離が流行っている。
古いものはできるだけ捨て、次々と新しいものに入れ替えることが常識的にみて正しく、運気を上げるなどともよく言われる。
それが全く間違っているとは、私も思わない。
本当に使えなくなってしまったものは捨てて生まれ変わらせてあげたほうが良いし、使う人にとっての環境の新陳代謝も必要だ。

でもやっぱり私は、たとえ何であろうと物はできるだけ長い間大事に使いたい。
こんなことを言うと馬鹿にされそうだが、物にはなんでも一つ一つに魂が宿っていると、私は昔から信じている。
また自分の手元にある物はどれも、奇跡にも等しい「私との縁」を持って生まれてきたのだと。
そして、感謝の気持ちを日々伝えながら大切に使えば使うほど持ち主の愛着が伝わり、物もそれに応えてくれる。
小さい頃からずっとそう思っているし、その考えが揺らいだことは一度もない。

実際我が家にはそれで何十年も壊れることなく活躍し続けてくれている道具や機械がたくさんあるし、今回もまた、それを確信させてくれる不思議な出来事が起きたのだった。

 

明日、新しいキーボードが届く。
当面問題がなくなったとはいえ旧K750を12年近く使い続けてきたのは確かで、いつまた突然使えなくなるかも分からないので、この機に世代交代はさせるつもりだ。
ただ古い方も当面は捨てずにサブPC(バックアップ用として使っている一代前のPC)用として、これからも傍に置いておく。
電池も先日交換したばかりだし、まだまだ働いてもらわねば。

‥‥‥ちなみに今、その古いキーボードを使って打ち込んでいます。(笑)